どうも鳥井(@hirofumi21)です。
以前『リアル 13巻』を読んで、こんな記事を書きました。
井上雄彦『リアル』13巻から考える悪役(ヒール)とは何か。 | 隠居系男子
13巻を読んだ後、「なぜ今ヒールを描いたのか、そこにどんなメッセージを込めたのか」それが気になって仕方なかったんです。
しかし、今回この『KAMINOGE』を読んで、その答えが少しだけわかった気がします。
プロレスのヒール役を使って井上さんが現代社会に伝えたかったこと、それは「本当の“強さ”とは何なのか」ということだったのではないでしょうか。
かみのげロングインタビュー
この雑誌はもともとプロレス誌なので、初めは全く読むつもりがありませんでした。
しかし、34ページにも渡って井上さんのインタビューが掲載されており、スラムダンクの制作秘話まで書かれているということだったので、今回実際に読んでみたんです。
結果、読んで本当に良かったと思います。
いつもの雑誌とはジャンルが違って、インタビュアーも他のカルチャー誌とは違う気質だからなのか、これまでの井上雄彦さんのインタビューではあまり語られてこなかった「勝ち負け」や「強さ」の部分が、今回の雑誌では深く語られていました。
勝ち負けよりも、もっと高等な“何か”を要求される
冒頭には、こんな言葉が大きく掲げられています。
「漫画のストーリーにおいて勝ち負けは相当重要だからこそ、ほぼ事前に勝敗は決めないで描くんです。でも、あらかじめ『勝つ』と決めて描く場合にもまた別の闘いがあって、そこにはもっと高等な“何か”を要求されるんです。」と。
勝負を描く際に、勝敗を決めないで書き始めるということにも驚きだったのですが、勝敗が決まっている時の高等な“何か”というのも、かなり気になります。
「“何か”が、何なのか?」このインタビューでは具体的に言及されていないんですが、この一連のインタビューを読んで、自分はそれが“強さ”であると確信しました。
井上雄彦の考える強さとは?
「プロレスの持つ強さとはなんだと思いますか?」という質問に対して、井上さんはこう答えます。
「いろんなもんを混ぜこぜにして、全てを呑み込んで生きていく」っていうことなのかな?美味いもんだけじゃない、不味いもんも全部呑み込んで、颯爽と歩いていくっていう。
颯爽じゃないのかな・・・そこでは背中が丸まってるかもしれないけど、とにかく歩いていくっていう、そんなイメージですかね。
また、以下のようにも語っています。
レスラーの人たちは自分たちの足の痛さとか動かなさをごまかしている。でも、その人から何かを受け取って、ちゃんと感動させられたりとか、満足して帰る人達がいるわけで。
なんかそこに矛盾があって、でもそこが強さだし、全部ひっくるめて呑み込んで、自分の姿を見せるっていうかね。
「井上さんご自身が考える強さとはなんですか」という質問に関しても、「清濁併せ呑むこと」だったり「一面的ではないこと」、「一箇所折ってもまだいくつもあるという厚み」と答えていました。
現代人へ向けたメッセージ
『リアル』を読んでいる人はご存知だと思いますが、リアルには高橋というキャラがいます。
バスケが上手く成績も優秀な高校3年生なんですが、そんな自分を「Aランク」と評価し、他者を見下している少し生意気な青年。
しかし、そんな彼が交通事故にあってしまい、下半身不随となって自暴自棄に陥ります。
「Aランク以外は人間じゃない」「Aランクから一気に底辺まで落ちてしまった自分は何の価値もない」というように…。
この高橋というキャラはきっと、“現代人の象徴”なんではないでしょうか。「こうあるべきだ」ということと、「こうでなければならない」というそのふたつの強迫観念に板挟みされてしまって、完全に自分を見失ってしまっている状態。
少なくとも、リアルを読んでいる世代は、正にそういった社会環境の中で育ってきたど真ん中の世代でしょう。
だから井上さんは、プロレスラーの白鳥が高橋に向けて見せつけたように、現代の“高橋たち”に向けて、今回のプロレスのシーンを通じて、「強くなりたい」ではなく「強くありたい」と思う心を持って欲しいと伝えたかったのかもしれません。
最後に
「清濁併せ呑むこと」だったり「一面的ではないこと」というのは、非常に難しく困難なことです。
ただ、この激動の時代の中において、この強さを持てるのかどうかは非常に重要な要素になってくるのは間違いありません。社会的な建前の強さではなく、自己を内から支えてくれるような強さ、それを常に意識し続けたいものです。
何はともあれ、井上雄彦さんの作品が好きな方には、とてもオススメのインタビューでした。興味がある人はぜひ。
それでは今日はこのへんで!
ではではー!
鳥井弘文(@hirofumi21)
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