(※このリンクは『崖の上のポニョ』公開時のプロフェッショナル仕事の流儀の宮崎駿特集です)
いやー、違うんだよなー、これじゃないんだよなー・・・あ、どうも鳥井(@hirofumi21)です。
『プロフェッショナル仕事の流儀 宮崎駿スペシャル「風立ちぬ」1000日の記録』 を一日遅れで昨夜見終えました。テレビが無いのでリアルタイムでは見れなくて…。
…結果的に、見ながら2回泣いてしまいました。
震災のあと、被災地に行って色紙にトトロを書いているシーンと、一番最後のカレーラーメンを食べているシーン、アレはずるいです。どう考えたって泣かせに来てます。だから堂々と泣いてやりました、はい。
…ただし!!
今回の『プロフェショナル仕事の流儀』は、これじゃない感がハンパなかったです。
今まで、ジブリが何度か『プロフェッショナル仕事の流儀』で特集されていたので、結構安心して見始めたのですが、「えー!?そのくだり、そうやって描くの!?」っていうのが多くて驚きました。
ということで、今日は少しだけモノ申したい気分なので、興味がある方は最後までお付き合いください。
鈴木敏夫さんは崖の上のポニョを否定していない。
一番最初に「えっ!?」って思ったのは、この部分です。
なぜか鈴木さんの登場シーンが、ポニョを否定するところから始まりましたが、アレはどうなんでしょう。
尊敬する人物の一人として、かなり前から鈴木さんの事は追ってきましたし、このブログでも度々登場しているのは皆さんご存知だと思います、そんな僕からみて、鈴木さんがポニョをつまらないものと捉えているということはあり得ません。
確かに、今回の映画は、鈴木さんが「戦闘機が大好きだけど、反戦運動にも参加していた宮崎駿に、戦争、そしてその戦闘機を作った男を描かせたらどう描くのか、その矛盾の中で葛藤しながら描く宮崎駿がみてみたい。」という事は、以前からずっと公言してきているので、この動機は間違いないと思います。
ゲンロンカフェ主催「風立ちぬ」公開!川上量生×東浩紀対談「川上量生の見た宮崎駿と鈴木敏夫~コンテンツとプラットフォーム~」に参加して来ました。 | 隠居系男子
そしてこのイベントに参加した時も、スタジオジブリプロデューサー見習いの川上量生さんが言っていました。「ただ売れるものを作りたければ、プロデューサーとして戦争をテーマにはすることは絶対にあり得ない。日本で売れたとしても世界で全く売れないから。だから今回のテーマは完全に鈴木さんの趣味です。」と。
この部分を強調したいがために、鈴木さんにポニョを否定させるような言葉を引き出して、これを強調させようとするのはいかがなものなんでしょうか。
前後に何の脈絡もなく、あのように編集してしまうのはいいんですかね?鈴木さんが半笑いしていたところからみても、たぶんインタビュアーによってあのセリフを引き出されたんだと思います。
もちろん、鈴木さんのことだから、そのように編集されてしまうことは十分承知の上だったのかもしれませんが…。
宮崎駿さんが『風立ちぬ』を作りたくて作った?
洞察力が鋭い人は気がついたかもしれませんが、宮崎さんがプラモデル雑誌に連載していたところの話から、急に話が飛んで、映画製作がスタートし始めていたと思います。
本当はあの間に、宮崎さんと鈴木さんのあいだで激しい口論があったという話らしいです。
今回の映画を作るにあたって、鈴木さんはこのテーマを題材にして映画を作って欲しかった、しかし、宮崎さんは「アニメは子供が見るものだ!」と主張し、最初はすごい剣幕で怒ったようです。
しかし、他のスタッフの「子供時代にわかんなくても、わかる瞬間が来ますよ」というようなアドバイスを受けて、色々と考え直した結果、このテーマで映画を作ることを決断したと。
あれだけ初期の頃から、密着取材をしているので、この部分も絶対に取材していることは間違いないです。映像が残ってなかったとしても、そのことはジブリファンには周知の事実なので、編集スタッフが知らないわけがありません。
意図的に「宮崎駿さんが自らの意志で作り始めた」と、今回のドキュメンタリーのなかでは描いたのでしょう。
編集という作業に、中立なんてモノは存在しない。
最近よくネット上でも議論になりますが、中立報道なんてものはありえない!という話。
多分、今回の編集の仕方は、最初に編集スタッフ側の“ストーリー”があったのでしょう。
「今までとは違う時代に入ったことを予感して、改めて自分の中にある矛盾と、一人孤独に向き合う宮崎駿」と「宮崎駿は戦争を美化するのか!?」といった2大テーマといったところでしょうか。
確かに、このテーマはドラマチックです。見ていて非常に面白いです。視聴者を満足させることもできるのでしょう。
でも、上記で述べたような経緯が実際にはあったわけで、やはりスタジオジブリにおいて、鈴木敏夫さんを抜きにして、宮崎駿さん一人で語るのは無理があります。
高畑勲さんと競わせようとして『風立ちぬ』と『かぐや姫』を同日に公開しようと企てたのも鈴木敏夫さんです。
もちろん鈴木さん以外に宮崎吾朗さんの影響も大きいでしょう。今回のプロフェッショナル仕事の流儀の中では「ジブリのとある作品」的に語られていた宮崎吾朗監督作品『コクリコ坂』だって、今回の『風立ちぬ』に与えている影響はかなり大きいはずです。
こんぺいとうをスタッフに配っているシーンがありましたが、あのシーンを「作品作りに行き詰まってお茶目に振る舞う宮崎駿」的に編集していました。しかし、アレも実際はコクリコ坂で苦戦する宮崎吾朗さんの様子を見に行って、ソレを悟られないように不自然にお茶目ぶっているワンシーンなんです。
3.11直後「制作活動を止めてはならんのですよ!」って怒鳴っているシーンも、もともとは宮崎親子の関係性を描いた『ふたり』というドキュメンタリー作品の一コマです。
あの辺りの宮崎駿さんの心情の変化を、しっかり理解したい人は、こちらのDVDを見ることをオススメします!
NHKの編集で、これだけ恣意的なまとめ方なので、本当に中立報道なんてものは存在しないんだなと、改めて実感したような気がします。
やはり、「編集」という作業には、必ず作り手の人間の意見や思想が含まれてしまうものだということは肝に銘じなければいけません。
今回の番組で良かったシーン
ここまで散々文句を言ってきましたが、もちろん良かったシーンも沢山ありましたよ!
まず、最初に挙げた、被災地で色紙にトトロのサインをするシーンや、最後に公開日初日に一人でカレーラーメンを作り啜るシーンなどは、よくぞ撮ってくれた!と思うところです。
また、二郎の声を庵野さんに決定するところの一連の流れも良かったと思います。あのくだりは、何度も色々なところで話にはでていたのですが、実際に映像で見られて、とても感動しました。
あの二郎の声優を選考する会議の前日に、鈴木さんはたまたま(意図的に?)庵野さんに会っていたということなので、もしかしたらコレが起こることを予想して、鈴木さんがわざとカメラを入れていたとも考えられますが・・・笑
あとは、宮崎さんが「面倒くさい」と連呼するシーンを入れてくれたのも、個人的にはすごく嬉しかったです。
タバコ騒動の一件もそうですが、宮崎駿さんのことを少し誤解して捉えていて、聖人君子のような人だと考えている人たちが、「これは宮崎駿らしからぬ行為だ、けしからん!」と批判していましたが、実際はもっと良い意味でも悪い意味でも人間らしい人です。笑
参照:『風立ちぬ』の喫煙シーンに言及している『鈴木敏夫のジブリ汗まみれ』を書き起こしてみた。 | 隠居系男子
決して、崇め奉られるような人ではなく、一人の現代に生きる人間として、世俗的な部分もしっかりと持ち合わせていて、皆と同じように、言ってることには時に矛盾があり、「おじいちゃん、何いってんの!?」って思わされるようなふつーの老人なんです。笑
そうゆう庶民的な一面もしっかりと持ち合わせているからこそ、宮崎駿という人間の魅力が更に深まっていると、僕は思っているのですが・・・。
オススメのドキュメンタリー作品
これは後々このブログで1本ずつレビュー記事を書こうと思っていたのですが、タイミング的にも今紹介するのが一番良いと思うので、紹介しておきます!
本当は出し惜しみしたいぐらいなのですが、今回のこの『プロフェッショナル仕事の流儀』をみて宮崎駿さんに改めて興味を持ってくれた人には、このタイミングでぜひ見てほしい作品なので!
『「もののけ姫」はこうして生まれた。』が6時間半、『ポニョはこうして生まれた。 ~宮崎駿の思考過程~』に関しては、なんと12時間半もある、超大作以上に超大作のドキュメンタリー作品です。
しかし、コレが本当に面白い!!
今回のプロフェッショナル仕事の流儀で彼のドキュメンタリーに興味を持って頂けたのなら、絶対に楽しんでもらえるはずです。僕は大学生の頃に、これらを一晩と二晩かけて、ぶっ通しで見続けました。
どれだけ長いんだよ!?って思わるかもしれませんが、日本人の誇り高き“職人”が、日本人なら知らない人がいない作品を1本作り上げるのに、どれだけの作業をこなしているのか、しっかりと余すところ無く見届けることが出来るというのはコレ以上にないですよ!
少し値段が高いですが、僕が大学生の頃に住んでいた最寄り駅のゲオでは、これがディスクごとにバラでレンタルしていたので、これを読んでくださっている皆さんの最寄りのレンタルショップでも取り扱っているかもしれません。
もし置いていれば、時間を見つけながらでもいいので、ぜひご覧になってみてください!!本当にオススメです!
またひとつ、日本という国を、これを生み出し受け入れるだけの土壌があるこの国を、好きになってもらえると思います。
最後に
かなり長くなってしまったので、最後に今回の番組の中で紹介されていた宮崎駿さんが書いた『風立ちぬ』の企画書の一節を引用だけして終わりたいと思います。
時代の歪みの中で夢は変形され、苦悩は解決せずに生きねばならない。
その運命は実は現代の世界に生きる自分たちそのものではないのか。
良いジブリライフを!
それでは今日はこのへんで!
ではではー!
鳥井弘文
<追記>
スタジオジブリドキュメンタリー映画『夢と狂気の王国』のレビュー記事も書いてみました。合わせて読んでみてください。
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